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4.3 木星の磁気圏の回転とイオのプラズマトーラス

 木星は地球の約2万倍の強い磁場を持っていて、木星の早い自転と共に回転しています。そこで高速で動く荷電粒子間では磁気的な引力が作用しており、寿命が長いプラズマトなっています。
 木星の半径の約6倍の距離に位置して「ドーナツ」の形でイオプラズマトーラスというプラズマが分布する領域があります。イオのプラズマトーラスは木星の磁気圏と共に反時計方向に約9.93時間の周期でを回転しています。イオは自転と公転が同期しており、42.456時間周期で反時計方向に公転します。 イオの公転軌道の半径は平均で421,700kmであるので、イオの周回速度はVorbiting of Io =17.3km/sec です。他方、木星の自転で回転する磁気圏とプラズマトーラスはイオの公転軌道上の移動速度は高速であり、Vplasma torus at Io =74.1 km/sec です。 そこで、イオから見たプラズマトーラスは相対速度がVplasma torus at Io – Vorbiting of Io =56.8 km/sec で移動しています。 この相対速度をH+が持っているので、衝突の運動エネルギー1/2(mv2)は 17eVトなります。このエネルギーを持つH+が衝突すると、分子をイオン化することができます。

 図12 に示すように惑星観測用宇宙望遠鏡「ひさき」を用いてイオのプラズマトーラスの硫化物イオンの極端紫外線の発光がイオの下流で強くなることが明らかになりました。

     

図12 木星の磁気圏の回転を介したイオプラズマトーラスの発生 (Reproduced from http://www.sci.tohoku.ac.jp/news/20160512-7885.html ) [Journal of Geophysical Research Space Physics: Local electron heating in the Io plasma torus associated with Io from HISAKI satellite observation https://doi.org/10.1002/2015JA021420 ]

 プラズマトーラスの中で強く発光する領域が磁気圏による追い風により加速されて公転軌道の前方に流されています。 これは、磁気圏に捉えられたプラズマトーラスのイオンが遅い周回速度のイオの地表をスパッタリングしてイオンが放出し、励起状態のイオンに自由電子が捉えられて原子になった時に発光したものです。 原子となると磁気圏の回転による加速を受けませんが、プラズマトーラスの中で原子とイオンの衝突が繰り返されているので、イオンは維持されます。 なお、プラズマのなかで自由電子の寿命は短いのでイオプラズマトーラスを維持しているのはプロイトン(H+)等のイオンです。プロトンの周回運動により周回方向に垂直な面に磁界が発生して、プラズマを閉じ込めるのでドーナッツ状にプラズマ領域が形成されています。


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